「見積書を送る前の確認手順はどこにあるか」。こうした質問に社内資料をもとに答えるAIを作るとき、最初に考えたいのは、検索させる資料の範囲です。古い手順や閲覧範囲の違う資料を一緒に集めると、もっともらしい回答でも実務に合わないことがあります。
まずは1つの業務に対象を絞り、答えてほしい質問と正しい資料を対応させます。全社のファイル整理が終わるまで待たず、範囲を限定した試行から始める方法を紹介します。
「探したい資料」より「答えてほしい質問」を書く
営業の手順書をすべて検索させる、という依頼では、どこまでできればよいかが曖昧です。実際に担当者が迷う場面を質問にすると、必要な資料と確認方法が見えてきます。
| 質問 | 正本にする資料 | 確認担当 |
|---|---|---|
| 見積書を送る前に何を確認するか | 見積送付チェック手順 | 営業責任者 |
| 特別な値引きは誰に相談するか | 承認ルール | 管理担当 |
| 送付後の記録はどこに残すか | 案件記録の運用手順 | 営業責任者 |
この表で必要な資料が見つからなければ、AIの設定前に手順を確認します。人によって答えが違う事項は、どちらを採用するかを決めないと、検索方法だけを変えても解決しません。
資料一覧には、版と閲覧範囲を付ける
資料名:見積送付チェック手順
管理者:営業責任者
版・更新日:v2/20XX年X月X日
対象業務:標準見積書の送付
閲覧可能な人:対象の営業担当者
正本の置き場所:社内で決めた保存先
旧版の扱い:検索対象から外し、履歴用に区分
見直しのきっかけ:承認ルールや書式の変更
複数の資料で内容が食い違うときは、更新日が新しいという理由だけで採用せず、業務の責任者に確認します。特定顧客だけの例外が全社ルールになっていないかも見てください。
回答には根拠と「分からない場合」を用意する
社内検索の回答は、結論だけでなく、参照した資料名と該当箇所をたどれる形にします。資料に書かれていないことを答えさせるより、確認先を示す方が役立つ場面があります。
【回答の形式】
回答:資料で確認できる手順を簡潔に示す。
根拠:資料名、版、見出し、参照箇所。
不足:資料に記載がない条件。
確認先:資料の管理者、または所定の窓口。
資料にない社内ルールを一般知識で補わない。
資料同士が矛盾する場合は、矛盾を示して確認を求める。
出典リンクが表示されても、その資料が回答を支えているかは別に確認します。引用先があること自体を、正しさの証明にしないようにします。
権限は、回答文へのお願いだけで守らない
「管理者向けの情報は答えないで」と指示しても、閲覧できない資料を最初から検索対象に含める設計では不十分です。利用者が参照できる資料の範囲を、検索側でも守れるか確認します。一般担当者と管理者で実際に試し、検索結果や引用部分に混ざらないかを見ます。
部署を変更した後や過去の会話からも資料が見えないかは、RAGの部署横断の権限試験で確認項目を具体化できます。
IPAもAI利用時の資料で、検索に使う情報の混在への注意を取り上げています。権限を含む環境整備は、利用サービスの仕様と自社の情報管理ルールに合わせて判断してください。IPA「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」
試行で用意する質問は3種類
- 答えがある質問:正しい資料と手順にたどり着くか。
- 答えがない質問:推測で埋めず、未確認と伝えられるか。
- 閲覧範囲外の質問:資料本文や引用を含め、権限外の情報を出さないか。
まずこの3種類を担当者が確認し、結果と修正点を記録します。社内の質問を広く扱うのは、対象資料の管理と確認手順が回るようになってからで十分です。資料を継続的に更新する方法は社内FAQの作り方と版管理で説明しています。
検索対象を広げる前に、答えのない質問も試す
最初の試験に、存在する回答だけを用意すると、根拠のない質問を保留できるかが分かりません。架空資料で、答えがある質問、資料にはない質問、旧版にだけ答えがある質問、権限外の質問を作ります。
期待結果は文章の自然さだけでなく、参照した資料と版、回答できない条件、担当者への案内まで含めます。「見つかりません」と返した場合も、実際には許可された資料に答えがあるのか、資料自体がないのかで改善する場所が違います。
自社の運用に合わせて整理したい場合は、現在の作業と確認したい点を挙げてAI活用の進め方を相談できます。